まず、はじめに自傷行為とはについてですが、
・存在意義の喪失
・落ち込み気分の軽減
・アピール
・生きてることの実感
・落ち着く
といったことを背景として自分の体を意図的に傷つける行為のことを指します。
自傷行為の方法は人それぞれ異なりますが具体的には
・リストカット
・鉛筆や針を腕に刺す
・お湯を流しやけどをつくる
・火のついたたばこを皮膚に押し付ける
・自分を叩く
・頭を壁にぶつける
・薬を過剰に飲む
・治りかけた傷口をこする
・爪で皮膚を傷つける
・異食 など
どれも死に至るレベルの傷付け方ではありませんが、周りからすると意味がわからず、痛々しいです。
目次
自傷行為と子どもの自傷行動との違い
主に自傷行為は、10代から20代の人がすることが多いと言われています。
もっと低年齢で、頭を壁に打ちつけるなどの行動が見られる場合は、「自傷行為」ではなくてコミュニケーションの困難などからくる「自傷行動」である可能性があります。
コミュニケーションが困難な子どもが、親にかまってほしいことなどを伝える手段として自らを傷つけたり、感覚が鈍い子どもが感覚遊びとして頭をどこかにぶつけたりすることがあります。
このような行動が自傷行動です。
自傷行動は自閉症などの発達障害のある人や、知的障害のある方に見られることが少なくありません。
自傷行為と自傷行動は、どちらも自分を傷つける点では共通ですが、その理由や対処法は異なるので注意が必要です

自傷行為と自殺行動との違い
誤解されやすいですが、自傷行為そのものは自殺するための行動ではありません。
自傷行為と自殺行動にはどのような違いがあるのか。
自傷行為と自殺行動の背景には、どちらも精神的苦痛があると考えられています。でも、この苦痛の性質に違いがあります。
自殺行動の要因となる苦痛は「もうなにをやってもだめだ」という絶望感や無力感から生じることが多いです。
そして、自殺行動に至るような人は、「この苦痛はどんなしても避けることができない」と考えてしまいます。
そのため、自殺を考えている人は、「自殺」が今のつらい状況から解放される唯一の手段だと確信していることも珍しくありません。
一方、自傷行為をする人は、精神的につらい時期とそうでない時期を繰り返します。
つらいときに一時的、つらくないように対処する手段が自傷行為なのです。
自傷行為を理解する上で注意しなくてはいけないことは、自殺とは目的が違うということなのです。
なぜ自傷行為をするのか
自傷行為を経験したことがない人の考え方
↓
リストカットをはじめとする自傷行為のことを、周囲の関心を集めるためにしているだとか、周囲に自分の状況をアピールするためにするのだとか思われがちです。
しかし、自傷行為は必ずしも周囲の人へのアピールのために行われているとは言えません。
自傷行為の経験がある人の話を聞くと、自傷行為は一人でいるときに周囲の人に気付かれないように注意して、行われていることが多いそうです。
もし本当に自傷行為が周囲に向けて行われているのであれば、人の多いところでしたり、積極的に自傷行為をしていることを告白してくるはずです。
中には自傷行為をしたことを積極的に報告してくる人もいます。
では、なぜ自傷行為をするのでしょうか。
自傷行為には次のような理由があるとされています。
不快感情の軽減
・気分が落ち込んだ時やストレスがたまってしまった時に、そのつらい感情から解放される手段として自傷行為を行うことがあります。
自傷が安定剤の役割を果たしていたり、ストレス解消の唯一の手段になっていたりと、自殺願望はなく、むしろ生きていくためにしてるという人も少なくありません。
これは本人が認識することの難しい「心の問題」を、痛みとして認識しやすい「身体の問題」に置き換えることで不快感情を軽減しているとも言えます。
自己懲罰的な自傷行為
自分自身を罰しないとと考えて自傷行為をする人もいます。
このような人は自分の理想や親の期待に対して現実が追いつかなかったときに、
「どうしてこんなこともできないんだ」と考えてしまいがちです。
自傷行為の背景にある本人の心理として
↓
・周囲に悩みを打ち明けることが苦手
・自分ひとりで抱え込んでしまう
・自己評価が低い
・自分が傷つくのは当たり前だと考えている
ことが挙げられます。
また、一部の人にみられることとして
・周囲に自分が愛されているのか知りたかった
・自分がどれだけ絶望しているか伝えたかった
・仕返しをしたかった
など自傷行為をする理由は様々あるようです。
自傷行為の多くは「周囲に気づいてもらうため」にするのではなくて、なんとかしたいけれどもどうしようもなく、「一人で解決するため」にしているSOSだと理解しましょう。

自傷行為のメカニズム
自傷行為をしている話を見たり聞いたりしたときに、どうしてわざわざ痛い思いをしてまで、そんなことするのか不思議に思ったことはありませんか。
なぜ、自傷行為なのかというと「痛み」を伴う行為によって脳内物質が変化するといわれているからです。
「自傷行為をした時に不快感が軽減される」というおかしな現象がなぜ起こるのか?
不快感が軽減されるメカニズム
ヒトには外傷を負ったり、過度な負荷が身体にかかったりしたときに、脳内で内因性オピオイドと呼ばれる物質を分泌して鎮痛効果を得る仕組みがあります。
具体的には、
・エンケファリン
・βエンドルフィン などです。
ここで注意しなければならないのが、自傷行為にも「慣れ」と「依存」があることです。
リストカットをしている人でもだんだんと刺激に慣れてきて、頻度が増えたり、深い傷をつけるようになったりする場合があります。
自傷行為をやめたくてもなかなかやめられない人は、自傷行為によって脳内物質を分泌することに依存しているのかもしれません。
自傷行為はやめないとだめなのか
自傷行為をする人の中には、自傷行為をすることで自分自身の身体は傷ついているかもしれないが、他人に迷惑をかけていないのだからやめなくてもいいと考えている人もいます。
自傷行為は確かに、あまり他人に迷惑をかけていないのかもしれません。
しかし、自傷行為をやめなくてもいいということではありません。
自傷行為は自殺の意図が含まれていない行為だとされていますが、ある程度自傷行為を繰り返した人の場合には、「消えてしまいたい」や「いなくなりたい」という自殺に繋がってしまう感情を抱くことも珍しくありません。
もし自傷行為が不安への臨時的な対処法になったとしても、絶望感や不安に駆られる根本的な原因には対処することができないのです。
自傷行為がエスカレートして自殺に発展する可能性も考慮すると、自傷行為を放置するのではなく、背景にある根本的な原因に対しケアを行い、本人が自傷行為をしなくても済むような、適切な支援を行っていくことが重要です。
自傷行為をやめるには
では、自傷行為をやめるにはどうすればいいのでしょうか。
自傷行為をやめるためには、2つのステップがあります。
1.何が自傷行為のきっかけになっているか
人それぞれ自傷行為をする理由や原因が異なるため、まず第一にどのような状況になると自傷行為をしてしまうのか、特定することが必要になってきます。
自傷行為が日常生活の一環になってしまっていると、どのような状況で自傷行為をしてしまうか答えることが難しくなります。
本人に聞いても原因がわからない場合は、対象者の日々の生活を記録することをお勧めします。
対象者に聞きながら1日の行動を1時間単位で記録し、自傷行為をするタイミングやどこにいたのか、誰といたのか、などの情報も一緒に記録しましょう
記録をとることで、自傷行為について客観的な判断ができるようになったり、記憶がない時間帯が見つかり解離症状が発見されたりします。
2.自傷をほかの行動に置き換える
自傷行為をやめるためには、原因を取り除くか、心理的な苦痛を自傷行為以外の方法で解消できるようになる必要があります。
他の行動に置き換えることを置き換えスキルと言います。
置換スキルというのは
心理的な苦痛を棚に上げて回避する方法ではなく、一時的に心理的な負担を軽くして根本的な問題と向き合うために行われる方法です。
すぐにできる置換スキルに以下のような方法があります。
<刺激的な置換スキル>
・スナッピング…手首に輪ゴムをつけて輪ゴムをはじくことで、衝動を紛らわせ意識を切り替える。
・香水をかぐ…刺激的な香水の香りで、気持ちを切り替える。
・氷を握りしめる…氷を握りしめることで、冷たい感覚が痛覚と区別できず、気を紛らわせる。
・腕を赤く塗る…血を見ると安心するような人に有効な方法です。
・大声で叫ぶ…大声で叫ぶことで、自傷したい衝動を抑えられます。
・筋トレをする…筋トレをすることで、「自傷」から気を紛らわすことができます。
このような刺激的な置換スキルは、何度も同じ方法を行っていると慣れで効果が減少してしまいます。
そのため、ある程度したら鎮静的な置換スキルへ移行していくことが好ましく、できるだけ早い段階から鎮静的な置換スキルの練習を始めることが必要と言われています。
<鎮静的な置換スキル>
鎮静的な置換スキルは、「身体の痛み」以外の刺激によって気をそらすのではありません。
呼吸法や瞑想法を行いマインドフルネスを得ることで、不安や緊張といった感情そのものを鎮めるような方法です。
マインドフルネスとは
過去や未来にとらわれず今この瞬間の体験に意識を向けて集中している状態のこと
しかし、マインドフルネスに至るための呼吸法はいきなりやっても効果が得られにくく、一定の練習や習慣づけが求められます。比較的落ち着いているときに練習しておくといいかもしれません。
具体的には次のように行います。
1、背筋を伸ばして、両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り目を閉じます。
2、なにも意識せず、自然と呼吸をします。
3、雑念や感情が湧いてきたら、心の中でリセットして考えないようにします。
4、呼吸が身体全体に行き渡っているかのように意識を広げていきます。
5、身体だけでなく、部屋の雰囲気にも注意を広げていきます。
6、そっと目を開けて、瞑想を終了します。
これらの一連の流れをはじめのうちは短時間から(5~10分を目安)行うといいかと思います。
うつ病などの治療を受けている場合は、必ずかかりつけの医師に相談しましょう。
精神科を受診をするかどうかの基準
友人や家族に自傷行為をしている人がいても、焦って無理に自傷行為をやめさせることはお勧めしません。
自傷行為を見つけた時は、
・どのような精神的苦痛があるのか
・自殺につながる危険性がないか
の2つの観点から評価するのが好ましいです。
評価の判断基準には、大きく分けて以下の5つの基準があります。
周囲に助けを求めていない
傷を隠したり、自傷行為について話さなかったりするのは周囲の人を信頼していない証拠。
周囲に対し助けを求めていないという状態です。
自傷をコントロールできていない
服で隠れるところにしか自傷行為していなかったのに、見えるところにしてしまったり、周りの目を無視して自傷行為してしまったりしている状態です。
自傷がエスカレートしている
頻度が上昇するだけでなく、傷つける部位や自傷の方法が増えているかで判断します。
痛みや記憶がない
自傷が習慣になっていると痛みを感じない場合があります。
また人によっては、「気づいたら傷が増えていた」のように自傷行為をしている記憶がすっぽり抜けてしまう場合があります。
自傷以外に健康を害する行動がみられる
以下の状態が現れたら注意しましょう。
・薬の乱用
・過度な飲酒
・過度な喫煙
・危険な性行動
・摂食障害
この5つのポイントから評価した際、多く当てはまることがあるなら、精神科に相談することをおすすめします。

自傷行為を見つけたら?
自傷する子どもや若者は、複数の機関で複数の人によって支えていくことが理想的です。
そのため精神科に受診または入院した際は、周囲の人が積極的に関わっていくことが重要になります。
自傷行為をしている人を見つけたり、相談されたりした場合にどのような行動をとればいいのか。
家族に自傷行為している人がいるとき
素人の方にありがちですが自傷行為している人に挑発的な態度をとったり、感情的に説教をしたりすることは避けましょう。「どうせ死ぬ覚悟もないくせに」や「勝手にすれば」などの挑発的な言葉を使うことは、避けましょう。
また口論になって、「腕を切ってやる」などと言われた時は感情的にならず冷静に、「切る切らないはあなたの問題かもしれないけど、私はそれを望んでいない」と伝えるといいでしょう。
挑発的な態度や感情的な説教と同じくらい避けるべき行動は、「自傷行為していることを見て見ぬふり」することです。気づいていないふりは、案外そのことがばれているケースが多いです。
自傷行為に気づいたら、無視するのではなくやさしく寄り添って声かけをするように心がけましょう。
友達が自傷行為しているとき
友達に自傷行為していると打ち明けることは珍しいことではありません。
知識のない子どもは相談されたとき、適切な対応することが困難です。
相談された子どもが「もう2度とこんなことしないで」と、できない約束を押しつけてしまったり、「誰にも言わないで」と頼まれたために相談された子どもが一人で問題を抱え込んでしまったりします。
では実際に相談されたときには、どうすればいいのでしょうか。
まず第一に、自分は味方であり、なんとか助けになりたいということを伝えるようにしましょう。
自傷行為はつらさを紛らわせる最善の方法ではありませんが、最悪の方法でもなく頭ごなしに否定するものでもありません。
自傷行為には専門家や大人の支援が必要です。
「誰にも言わないで」と頼まれたとしても、信頼できる大人に伝えるようにしましょう。
まとめ

自傷行為の背景には、周囲へのアピールや、かまって欲しいという感情ではなく、どうしようもない精神的苦痛があるのかもしれません。
精神的に苦しんでいる人に、精神論で説教したり、安易に大丈夫だと話したり、今すぐ自傷行為をやめるように約束させたりすることは、かえって追い詰めることになってしまいます。
もし周囲に精神的に苦しんで自傷行為する人がいたら、話を聞いたり、味方であることを伝えたり、寄り添うようにしましょう。
自傷行為するまで精神的に追い込まれる要因は、本人の性格的な問題や今までの経験、周囲の環境など複雑です。
だれかが自傷行為したからといって、周囲の人が責任を感じる必要はありません。むしろ自傷行為をやめられるように、環境を整備したり、協力したりしていくことが重要です。
・強迫症状