精神薬を否定する親の想い

当時の情報として

・男性患者(25歳前後)
・一人っ子
・両親とも息子に過保護気味

エピソード

私がまだ精神科に勤めて数年目の時の話になります。

私は療養病棟に勤めており、急性期から入院が長くなりそうな患者が転棟してくるような病棟にいた頃の話です。ある時、入院が長期化しそうな患者が急性期病棟から転棟してきました。

その患者さんの病名は

”統合失調症”

医療保護入院にて保護者が父親。
両親はあまり服薬に関していいイメージを持ってはいませんでした。
基本、治療方針として薬物療法から始まりますが、その患者が入院してきた時は父親の影響で薬剤治療が出来てない状況で、患者の状態は一向に良くなることなく、次第にいろんな症状が出てきました。

元々、
・まとまりにかける行動
・幻聴
・独語等

がありましたがそれに加えて

  ↓
・思考停止
・こだわりの増強
 (食事のこだわり、野菜しか食べなくなる)

が出てきました。

家族に病状が悪化していることを説明しても、服薬治療に対しての理解は得られませんでした。
家族としての意見は「食べたくないんでしょうね」っと言っていい、重要視する様子はありません。

患者はどんどん状態が悪化し、野菜も食べなくなり鼻から栄養を入れる経管栄養法での食事となりました。
目も瞑りはじめる生活をするようになりました。
明らかに状態が悪化しているにもかかわらず家族は「そんな時もありますよ」といい、不思議な水を飲ませたりお守りを渡したり部屋中にベタベタする水を霧吹きで撒いたりしていました。
そんな家族を見ていて、多分私たちとの価値観が全然違うのだと気付来ました。

そのことに気付いてからは両親に対してのケアを重点的に行うようにしました。
まず、なにを思っているのかを聞くために面会に来るたび、詳細な状態報告をするようにして、なんとか信頼されたるようにしました。

そんなある日、なぜお薬に対してそんなに抵抗があるのか聞きました。

『風邪薬に対しては特に拒否的ではないのですが精神薬は・・・。』

とのこと。さらに根気強く聞くと話してくれました。

『その精神科のお薬を飲むことで症状が抑えられるんですよね。それはわかります。でもそれを飲んで治ってもそれは本当の息子なんですか。いろんな感情をおくすりでコントロールをしてそれが本当の息子なんでしょうか。』

と父から話がありました。

私はその場で「適切な用法、用量でお薬を飲んでもらいますので大丈夫です」と答えましたがその後、車の中でふと思い出して、とても深い言葉だったなと考え、その答えは本当のところ私にもわかりません。
ですが、その患者さんはそれから徐々に良くなり自然と目を開け、食事を食べ始め、お薬を飲まずに退院されました。

現在はうちの病院にはかかってないみたいですがお薬を服用せずに生活してると聞きました。
率直にすごいなと思い、またあの言葉を時々ふとした瞬間に思い出します。